日本の家庭では、害虫に対して様々な殺虫剤・防虫剤が使用されています。一方で、それらを妊婦が使用した時に、生まれてくる子どもの発育に影響が現れるか否かについて、ヒトを対象とした研究では十分に明らかにされていません。この研究では、エコチル調査に参加した93,718人の妊婦とその赤ちゃんについて、妊娠中の殺虫剤・防虫剤の使用と赤ちゃんが生まれた時の体格や生後1か月の体格の変化との関係を調べました。その結果、妊娠中における特定の殺虫剤・防虫剤の使用は、子どもの出生体重や生後1か月の身長増加量の減少とわずかに関連していましたが、個人レベルではそれらの影響は大きくはありませんでした。例えば、燻煙式殺虫剤を使用した妊婦の赤ちゃんは、出生体重の平均値が約12g軽いことがわかりました。このように、小さいながらも統計学的な関連が見られたため、これらの影響が子どものその後の体格の発育を含む様々な発達とどのように関わっていくのかについては、今後さらなる検討が必要です。なお、妊娠中の除草剤の使用についても調べましたが、赤ちゃんの体格への影響はありませんでした。

 

どのような研究なの？

エコチル調査約10万人の妊婦を対象に、妊娠中の殺虫剤・防虫剤の使用と子どもの体格の発育の各指標（出生時体重・身長、生後1か月までの体重増加量・身長増加量）との関連についてそれぞれ調べました。

なぜこの研究が必要なの？

日本では、殺虫剤・防虫剤が家庭で広く使われています。 これらは、人間、特に出生前に妊婦の体に取り込まれることで生まれてくる子どもに健康上の影響をもたらす可能性があります。特に、新生児の体格の発育にどのような影響が現れるかについては十分に明らかにされていませんでした。

この研究で新しく分かったこと

妊婦が燻煙式殺虫剤を使用した場合、出生体重の平均値が約12g減少しました。また、妊婦の蚊取り線香/電気式蚊取り器の使用頻度が増えるほど、子どもの身長増加量の平均値は減少し、出生後１ヶ月時点では毎日使用した場合は一度も使用しなかった場合に比べて約0.1cm身長増加量が小さくなりました（下図参照）。さらに、衣類用防虫剤、屋内用スプレー式殺虫剤、蚊取り線香/電気式蚊取り器、虫よけスプレー/虫よけローションを妊娠中に全て使用していると、衣類用防虫剤のみ使用および何も使用しなかった場合に比べて身長増加量は平均で約0.2cm減少していました。このように、個人レベルでは必ずしも大きな影響があったとは言えませんが、これらの影響が子どものその後の体格の発育を含む様々な発達とどのように関わっていくのかについては、今後さらなる検討が必要です。

妊婦の蚊取り線香/電気式蚊取り器の使用と生後1か月後の子どもの身長増加量との関連（値は推定平均値）。妊婦の蚊取り線香の使用頻度が増えるほど、子どもの身長増加量の平均値はわずかに減少していきます。この意味合いについては更なる研究が必要です。

今まで知られていたこと

動物実験では、ピレスロイド系殺虫剤が甲状腺に影響を与える可能性があることが示されています。 さらに、人を対象とした疫学研究では、ピレスロイド系殺虫剤の妊娠期の使用が出生時体重をわずかに減少させるとする論文と関係性がないとする論文があり、科学的にはその影響は未解明のままでした。

※本研究は環境省の予算により実施しました。本論文内容はすべて著者の見解であり、本記事内容は愛知ユニットセンターの見解・解釈であり、環境省の見解ではありません。